ひさおの独り言2016

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大隅先生のノーベル賞受賞のもつ意味

大隅先生がノーベル賞を受賞された。酵母研究者の私たちにとって、大変におめでたい出来事だ。

私は研究上で直接先生に関わったことはないのだが、学会で知り合いにならせて頂き(今はこういう表現になってしまう)、その後大隅先生が酵母遺伝学フォーラムの会長になられたときには、私を広報委員として引っ張ってくださった(私はその後12年広報委員をやることになった)。

報道されているように大変に気さくな方で、酵母界のもう一人の御大とは違って、決して偉そうな態度をとらない方なのだ。まあこれは、大隅先生の人柄に加えて、先生が長年研究所の教授であって、大学の教授ではなかったことに関係しているのかもしれない。

正直、大隅先生のノーベル賞受賞は驚きだった。確かにノーベル賞受賞者の候補にお名前は上がっていたし、知り合いの酵母研究者の間でもノーベル賞という言葉がささやかれていたが、生物学のたくさんの重要な仕事達の中にあって、大隅先生+オートファジーがノーベル賞を受賞するという事があまりピンとこなかった。

しかし、受賞された。これは、私たち酵母研究者にとっては、非常に大きなインパクトであるといえる。それも、もちろん、ポジティブな意味でだ。ちゃんとその意味を理解しないといけない。

今後、酵母研究に大きな予算がついてウハウハだ、というような話ではない。今日からは、「酵母って何? パンとかビールとか作ってんの?」と言われれなくなる、というのも大きいが、そんな小さな話でもない。同僚のS先生は、大隅先生がノーベル賞を取ったことに逆にがっかりしていた。自分たちの研究分野に来ていたパイが、細胞研究・オートファジーにまわってしまうことを懸念してだ。

だが、大隅先生の受賞は、そういう目に見える俗物的な(?)インパクトとは違うところにある。と言うか、そういう文脈で語るべきではない。これは、地道でオリジナリティに溢れた基礎研究の価値を日本人に知ってもらうチャンスだといえる。

昨年のノーベル物理賞の受賞では、素人にはその価値のまったくわからない、そして何の役に立つのかわからない、と言うか役に立つことを目指して行われていないサイエンスがあり、日本がそのレベルのサイエンスで高い実力があることを、日本人は誇りに思ったはずだ。しかも、そのサイエンスはずっと古い発見ではなくて現在も進行中で、日本の科学投資の対象であり、若い人たちのあこがれの対象ともなっただろう。

大隅先生の科学もそうだ。お年ではあるが、最近、細胞研究の拠点を組織されて、まだまだバリバリ研究を進めていらっしゃる。「オートファジーの研究はまだ三合目」というように、まだまだ進行中の研究対象なのだ。(そして、オートファジーが三合目だってことは、酵母細胞全体にはもっともっと登るべき余地がある)。彼は、彼の成果は、GFPのような「過去のもの」とは違うのだ。

さらに、大隅先生の人柄だ。先生は決して他の人の邪魔をしない。広い心で人を育てようとする。私も広い意味で先生に育ててもらった人間の1人だ。

だから、このノーベル賞の後に起きること、ポジティブな未来にワクワク感が持てる。私自身に直接の利益はないかもしれないが、酵母を含めた日本の基礎生物学にとって明るいニュースなんだ。

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以下は、雑感

出来上がった料理をかっさらった(研究成果を十分に出された大隅先生を退官間際に雇用した)東工大を批判していた人がツイッターにいたが、私はそうは思わない。東工大は、すくなくとも大隅先生にとって魅力的なオファーをしたはずだし、その結果として大隅先生は研究を続けられ、さらにノーベル賞を受賞された。経営戦略として非常に正しいことをしたことになるし、そのことによって大隅先生の研究は終わることなく発展し続けている。


大隅先生の受賞コメントの中に、「人と違うことをする」という言葉があった。これはノーベル賞受賞者の多くが口にすることなのだが、オリジナリティとはつまりそういうことだろう。私は、オートファジーに首を突っ込むことをずっと避けてきた。この二十年くらいのオートファジーフィーバーでは、国内の酵母の研究者はこぞってオートファジーに手を出そうとしていた。まあそれくらい色々と発見できそうなネタがあったとも言える。だが、私は避けた。それが、「人と違うことをする」第一歩だろう。私はそういう、オリジナリティを追求する態度・ポリシーには自信がある。オリジナリティだけには・・・と言ったほうがいいかもしれない。当然、大隅先生ほどすごい発見をしたわけではないが、でもまあそのポリシー(だけ)は曲げたくない。


最後に、Twitterのタイムラインに流れていた、(「研究を続けていくコツを教えてください」に対する)大隅先生の言葉、「自分の研究のファンを大切にすること」。これだこれ。そう、なんか私の研究のファンていう感じの人がいるんだ。先日滞在したトロント大のボスもそう。大隅先生も若干私のファンであってくれる気がする。そういう人のおかげで、ほんと、今がある。ファンの期待を裏切らないような仕事がしたいと思うんだ。今感じている「ちょっと俺やれるかも感」の原因の一つはきっとそれだ。


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by hisaom7 | 2016-10-03 23:36 | 日記 | Comments(0)